今回は、今まで殺虫剤を使ったことがないという初心者の方向けに、芝生に使えるおすすめ殺虫剤の紹介や殺虫剤の使い方を解説していきます。
芝生が突然枯れはじめた、どうやら害虫のせいみたいだけど、どうすればいいのかわからない。または殺虫剤を使ったことがなく使い方がわからないという方も多いと思います。
芝生の害虫たちは、普段は芝生の葉っぱの影や、サッチ層または地中に潜んでいます。そのため、庭の芝生に害虫がいるという実感がないかもしれませんが、芝生が突然枯れ始めた原因が害虫のせいだったということはよくあります。
そして、芝生が目に見えて枯れていっているような状況であれば、数十匹または数百匹という単位で害虫が大量発生していると考えられるため、速やかに殺虫剤を散布して被害の拡大を防ぐことが重要です。
とはいえ、芝生に使用する殺虫剤は農薬の一種ですので、今までそういった農薬を使用したことがない人にとってはハードルが高いと感じるかもしれません。殺虫剤等の農薬は、間違った使い方をすれば芝生や環境に悪影響を及ぼすだけではなく、自身や周囲の人々の健康を害する可能性もあるのは事実です。
しかし、農薬は正しい使い方をすれば安全であり、過度に恐れる必要はありません。なぜなら、そもそも農薬というのは農薬取締法にもとづいて、人に対する安全性や環境への影響調査など様々な試験を実施した上で登録を受けているからです。
とはいえ、今まで殺虫剤を使ったことがないという初心者の方が不安を感じるのは当然のことです。そこで、この記事では殺虫剤を使うのが初めてという方でもわかりやすいように、殺虫剤を使うための準備や使い方を具体的に解説していきます。
芝生の害虫に悩まされている方は、是非この記事を最後まで読んで、殺虫剤の使用にトライしてみてください。
この記事は殺虫剤の一般的な使い方について解説したものです。殺虫剤などの農薬や各種器具を使用する際は、それぞれの取扱説明書等をよく読んだ上で、必ずその内容に従って使用してください。
芝生用の殺虫剤を使う前に必要な準備
殺虫剤を使うために必要なもの
殺虫剤を使う前に必要な薬剤や器具を確認して、足りないものがあれば購入しておきましょう。
- 殺虫剤
- 展着剤
- スプレイヤー(またはジョウロや噴霧器)
- キッチンスケール
- バケツ
- 計量カップ
- 計量スプーン
- シリンジ
- 手袋・長靴・マスクなど
殺虫剤は指定された倍率で希釈(水で薄める)をして薬液を作ってから、スプレイヤーまたはジョウロや噴霧器などの器具を使用して芝生に散布します。スプレイヤーとは薬液や液体肥料を散布するための器具のことで、ホースに装着することによってホースシャワーから薬液や液肥を直接散布することができる便利なものです。
うちの庭の芝生は20坪弱(約65㎡)ぐらいあるので、ジョウロで薬液や液体肥料をまくのはかなり大変です。芝生の面積が広い方は、スプレイヤーを使用するとものすごく楽になりますよ。一度使ったら手放せなくなります。
こちらのスプレイヤーAQUA+は2千円台とお手頃価格が嬉しいのですが、液体肥料散布用の製品です。薬液散布に使うのは自己責任になりますのでご注意ください。薬剤にも使用できて高性能なスプレイヤーを求める方は、スイス BIRCHMEIER社製のアクアミックスという製品が人気なようです。
キッチンスケール・バケツ・計量カップ・計量スプーン・シリンジなどの計量器具は、殺虫剤や展着剤を計量して薬液を作るときに使用します。これらはよく洗って使用すれば、殺虫剤専用のものを用意しなくても、液肥・殺菌剤等を使用するときのものと兼用しても構いません。
ただし、台所で使用する器具を殺虫剤等の農薬に使うのは厳禁ですので、もし屋外用の計量器具を持っていない方はこの機会に購入するようにしてください。また、除草剤を使う場合は専用の器具を用意した方が良いでしょう。
高価なものである必要はありませんので、百円ショップやホームセンターで販売されているもので十分です。おすすめのキッチンスケールについては以下の記事で詳しく解説しています。
また、殺虫剤を使用するときは農薬用マスク、手袋、長ズボン・長袖の作業衣などを着用し、薬剤の説明書(特に安全使用上の注意)に記載されている内容に従って作業しましょう。
おすすめの殺虫剤
殺虫剤は農薬の一種であり、薬剤毎に使用できる作物や適用害虫(効果がある害虫)が定められています。適用外の農薬使用は法律で禁じられていますので、殺虫剤を選ぶ際は必ず芝生に適用があるものの中から、現在発生しているまたは発生が疑われる害虫に効果があるものを選んでください。
とはいっても、初めての方はどれを選べば良いのかわからないと思いますので、日本芝(高麗芝やTM9等)に使用できるおすすめの殺虫剤を紹介します。
フルスウィング顆粒水和剤
適用害虫:コガネムシ類幼虫、シバツトガ、スジキリヨトウ、シバオサゾウムシ、タマナガヤ幼虫、チガヤシロオカイガラムシ、ケラ
フルスウィング顆粒水和剤(以下、フルスウィングという)は、芝生の害虫全般に有効なネオニコチノイド系の殺虫剤です(有効成分:クロチアニジン)。
家庭の芝生における害虫のほぼ全てに対応しているので、これ一本あれば安心することができますよ。
フルスウィングをおすすめする第一の理由は、害虫によく効くことです。
フルスウィングは接触食毒剤といって、「接触毒(害虫が殺虫剤に触れたら効く)」と「食毒(害虫が殺虫剤を食べたら効く)」の両方の効果をもつ殺虫剤であり、速効性(速く効く)と残効性(長く効く)の両方が期待できます。
フルスウィングには、散布した薬の成分が芝生の根や葉から吸収され、芝生内を移行して芝生そのものが殺虫効果をもつ「浸透移行性」という特徴があります。
芝生の害虫の中でも、コガネムシの幼虫やシバオサゾウムシは殺虫剤が効きにくい厄介な害虫と言われています。それは、地中深くに生息しているため殺虫剤が届きにくいのが理由です。
しかし、フルスウィングには「浸透移行性」があることから、地中深くに潜むコガネムシの幼虫やシバオサゾウムシにもよく効くという特徴があります。地中深くまで直接殺虫剤を届けなくても、殺虫成分が移行した芝生の根っこを食べさえすれば殺虫剤の効果があらわれるからです。
実際にわが家ではシバオサゾウムシの被害に悩まされていたのですが、フルスウィングを散布することで被害を大きく抑えることができたので、コガネムシの幼虫やシバオサゾウムシに悩まされている方には特にフルスウィングをおすすめします。
フルスウィングをおすすめする第二の理由は、初心者でも扱いやすいことです。
昔からよくある殺虫剤は刺激臭が強いものが多いですが、フルスウィングは臭いがほとんどないので初心者でも抵抗なく扱うことができます。
また、フルスウィングは散布する薬液の量が0.5L/㎡と比較的少ない(※)ので、散布する手間が少なくすみます。
作業がしやすく、作業量自体も少なくすむので、初心者でも扱いやすい殺虫剤といえるでしょう。
(※)シバツトガ、スジキリヨトウ、シバオサゾウムシ、タマナガヤ幼虫、チガヤシロオカイガラムシ、ケラに対して、希釈倍数5,000倍で使用する場合の散布量の例。実際の作業時には必ず適用表の記載に従って散布してください。
最後にフルスウィングの入手方法ですが、フルスウィングはホームセンターなどでは販売されていないためネット通販で購入してください。急ぎで使いたいという場合はAmazonで注文すれば最短翌日には届くのでおすすめです。
なお、同じ殺虫剤だけを使い続けると、その殺虫剤に耐性をもつ虫だけが生き残ってしまい、次第に殺虫剤が効きにくくなってしまいます。
そのため、できればフルスウィングだけではなく、スミチオンやダイアジノンなど他の殺虫剤もローテーションして使用するとより効果的でしょう。
おすすめの展着剤
展着剤は殺虫剤等の薬液に加えて使うことによって、付着性や浸透性等を高める効果があるものです。殺虫剤に展着剤を加えることで、殺虫剤の効果が安定することが期待されます。
展着剤そのものに殺虫や殺菌の効果はありませんが、なかには使用できる作物や薬剤が限定されている展着剤もありますので、購入する前に適用や注意書きを必ず確認しましょう。今回は私が使用した展着剤を紹介します。
アプローチBI
機能性展着剤
『農薬が作用をおよぼす部分に薬液をすばやく、的確に到達させ、薬効を安定させます。とくに付着性、浸透性にすぐれていますので、効果にムラがなくなります。』
(引用:丸和バイオケミカル株式会社WEBサイト)
殺虫剤の散布には噴霧器を使用するべきか?
結論としては、芝生に殺虫剤を散布するときには基本的にジョウロやスプレイヤーを使用し、噴霧器は使用しません。
庭木や野菜に殺虫剤を散布するときには噴霧器を使用するのが一般的ですが、それは葉の裏などに潜んだ害虫にも殺虫剤が届くように万遍なく散布するのには噴霧器が向いているからです。
一方、芝生の場合は、サッチ層や地中に潜んでいる害虫に殺虫剤が届くようにすることが重要であり、散布する薬液量も多くなる傾向にあります。
芝生の葉っぱ一枚毎に満遍なく殺虫剤を吹きかける必要性は薄いので、作業効率を考えるとジョウロやスプレイヤーを使用して殺虫剤を散布することをおすすめします。
芝生用の殺虫剤「フルスウィング顆粒水和剤」の使い方
準備が整ったら殺虫剤を散布しましょう。
例として、日本芝(TM9)のコガネムシ類幼虫を狙ってフルスウィングを散布する方法を解説します。
展着剤アプローチBIを添加して使用します。散布に使用する器具はスプレイヤー(AQUA+)とします。
1. 散布液量と殺虫剤・展着剤の必要量を計算する
まずはじめに、使用する散布液(薬液)と殺虫剤の必要量を計算します。
計算にあたって、散布対象となる芝生の面積をあらかじめ把握しておきましょう。原則として、殺虫剤を使用するときは害虫を見つけた場所(または害虫被害と思われる場所)をピンポイントで狙うのではなく、庭の芝生全面に散布することをおすすめします。今回は芝生の面積70㎡として計算します。
続いて、希釈倍数や散布液量は、殺虫剤・展着剤の説明書(適用表情報)に書かれているので確認しましょう。
<殺虫剤(フルスウィング)の適用害虫と使用方法>(※一部抜粋)
適用病害虫 | 希釈倍数 | 使用液量 |
コガネムシ類幼虫 | 5000倍 | 0.5L~1L/㎡ |
コガネムシ類幼虫、シバツトガ、スジキリヨトウ | 1000倍 | 0.1L/㎡ |
シバツトガ、スジキリヨトウ、シバオサゾウムシ、タマナガヤ幼虫、チガヤシロオカイガラムシ、ケラ | 5000倍 | 0.5L/㎡ |
フルスウィングの使用方法を見ると、適用:コガネムシ類幼虫の説明が2つあります。
今回の例では、コガネムシ類幼虫には希釈倍数5000倍で使用することにします。その理由は、希釈倍数1000倍にしたときの使用液量0.1L/㎡は量が少なすぎて、ジョウロやスプレイヤーでは偏りなく均一に薬液を散布するのが難しいからです。
薬液の散布にムラがあると殺虫剤の効果がちゃんと発揮されないことがあります。個人差もあるとは思いますが、少なくとも0.5L/㎡以上の量があったほうが偏りなく均一に薬液を散布しやすいと思います。
なお、希釈倍数5000倍というのは、水5000ml(5000g)に対して薬剤1gを入れて散布液を作るという意味です。
ところで、コガネムシ類幼虫に希釈倍数5000倍で使用する場合、使用液量は0.5L~1L/㎡と幅があります。このような場合は、幅の中で任意の使用液量を選んでください。今回は0.5L/㎡で使用するものとします。
<展着剤(アプローチBI)の適用表情報>(※一部抜粋)
適用農薬名 | 作物 | 使用量 |
殺虫剤、殺菌剤 | 稲、麦類、果樹類、野菜類、花き類、茶、芝 等 | 10ml/散布液10L |
展着剤の使用量は、使用する農薬や作物の種類によって異なる場合があるので、説明書(適用表情報)で必ず確認しておきましょう。
さて、芝生の面積、希釈倍数、散布液量がわかったら実際に計算してみましょう。
<計算例>
・芝生の面積:70㎡
・殺虫剤の希釈倍数:5000倍
・散布液量:0.5L/㎡
・展着剤の使用量:10ml/散布液10L
散布液の必要量:0.5L/㎡×70㎡=35L(35kg)
殺虫剤の必要量:散布液35kg÷5000倍=7g
展着剤の必要量:散布液35L×10ml/散布液10L=35ml
<スプレイヤーを使用する場合の例>
今回使用するスプレイヤー(AQUA+)はボトルに入れた溶液を100倍希釈で散布できるものです(※流量が1分あたり10Lの場合)。つまり、希釈倍数5000倍で散布したい場合は、あらかじめ50倍に一次希釈した溶液をボトルに入れる必要があります(5000÷100=50)。
殺虫剤7g×希釈倍数50倍=一次希釈液量350mlとなります。スプレイヤー(AQUA+)の付属ボトル容量は500mlなので一度で全ての一次希釈液を入れることができます。
【一次希釈液の作り方】
一次希釈液の必要量:350ml
殺虫剤の必要量:7g
展着剤の必要量:35ml
水の必要量:308ml(350ml-7g-35ml)
薬液を作るときのポイントは、薬剤(殺虫剤・展着剤)と水の合計が散布液(または一次希釈液)の量になるようにすることです。
今回の例で言うと、水350mlに薬剤を加えて一次希釈液を作るのではなく、水と薬剤の合計が一次希釈液の必要量350mlになるようにしてください。
液量を考えると、バケツではなく大きめの計量カップを使用して作ると良いでしょう。
2. 計量カップに水を入れる
計算が終わったら、計量カップで一次希釈液を作ります。
殺虫剤の薬液を作る場合は、水→展着剤→殺虫剤の順番で溶かし入れるのが基本です。
最初に計量カップに水308mlを入れましょう。
3. 計量カップに展着剤を追加する
次に、展着剤アプローチBIを35ml計量し、計量カップに追加してかき混ぜます。
展着剤を計量するときは計量スプーンを使用します。少量の場合はシリンジなどを使用しても良いでしょう。
4. 計量カップに殺虫剤を追加する
最後に、殺虫剤フルスウィングを7g計量し、計量カップに追加してかき混ぜます。
殺虫剤を計量するときはキッチンスケールを使用します。必要量が7gと少量なので、0.1g単位で計量できるスケールを使用することをおすすめします。
フルスウィングは顆粒タイプの薬剤で水に溶けやすく、飛び散りにくいので初心者でも取り扱いやすい薬剤です。
5. 一次希釈液をスプレイヤーのボトルに移してセットする
一次希釈液ができたら、スプレイヤーのボトルに移してからスプレイヤーにセットします。
ホース⇔スプレイヤー、スプレイヤー⇔ボトルの接続にゆるみがないかどうかしっかり確認しましょう。
6. スプレイヤーを使って散布する
スプレイヤーのセットが終わったら、いよいよ殺虫剤を散布します。
希釈倍数50倍の一次希釈液を100倍で散布しますので、スプレイヤーからは希釈倍数5000倍の散布液が散布されることになります。散布量0.5L/㎡を目安に散布していきましょう。
スプレイヤーを使って散布するときのコツですが、初めて散布するときは0.5L/㎡がどれぐらいの量なのかわかりにくいかもしれないので、水を使ってあらかじめ確認・練習しておいたほうが良いと思います。
また、今回の例ではスプレイヤーが空になるまでに庭の芝生全面に散布することを意識して散布してください。
↓今回紹介した殺虫剤フルスウィングはこちら↓
まとめ
芝生の害虫対策@初心者向け殺虫剤の使い方のまとめです。
- 殺虫剤を使用するときは、取扱説明書(注意書き)をよく読んだ上で、必ずその内容に従って作業する
- 殺虫剤は必ず芝生に適用があるものの中から、現在発生しているまたは発生が疑われる害虫に効果があるものを選ぶ
- 殺虫剤には展着剤を加えて使用する
- 殺虫剤を散布するときはジョウロやスプレイヤーを使用する
- 殺虫剤は複数の種類をローテーションして使用する
殺虫剤等の農薬は、間違った使い方をすれば芝生や環境に悪影響を及ぼすだけではなく、自身や周囲の人々の健康を害する可能性もあります。しかし、正しい使い方をすれば安全なものであり、過度に恐れる必要はありません。
正しく使えば殺虫剤は芝生管理の強い味方になってくれますので、取扱説明書(注意書き)をよく読んだ上で、必ずその内容に従って作業するようにしましょう。
また、殺菌剤や除草剤の選び方・使い方については以下の記事で詳しく解説しています。芝生の病気や雑草に頭を悩ませているという方は是非あわせてご覧ください。